「あくまでも私の考えですが」という戯言

 よく聞きますね、こういう言葉。「あくまでも私の考えなんだからお前に何か言われる筋合いはない」「勝手にお前の意見や価値観を押し付けるな」という風に持っていくために使われます。

 

 まずはっきり言っておきますが、あらゆる主義主張は「あくまでも私の考え」であり、「押し付け」以外の何物でもありません。こっちからすると「あくまでも私の考えなんだからお前の価値観を押し付けるな」という言葉こそ、最高の「押し付け」でしょう。

 この言葉は「私の考えは批判される覚えがないが、お前の考えは間違っている」との暴論にまで繋がることがあります。「あなたの考え」だろうがなんだろうが、間違っているものは間違っているし、論拠に乏しいものは乏しいものなんです。本当に価値観が人それぞれならば、あなた自身に対するありとあらゆる批判もありうるという事は当たり前の事実なのです。

 

 最近は「価値観」というものを大切にする風潮があります。「価値観の尊重」とはつまり、「どの価値観も肯定される」という事ではなく、「どの価値観も無下に扱われず、精査の対象となる」事を指して言っているのです。あいつが嫌いだからあいつの意見(価値観)は無視する、ではなく「人は様々な価値観を持っているからこそ、それらを比較、精査し、より良い結果へと持っていく」という意味で「価値観の尊重」という言葉が使われるのです。「精査の対象になる」だけであり、「誰しもが価値観を持っている。そして、それは全て真であり、肯定される」訳ではありません。

 

「押し付け」が嫌なのであれば、そもそも主張などせず、黙っておけば良いでしょう。議論とはその「押し付け」をわかったうえで、その内容の真偽や妥当性を求めるものなのです。しかし、「押し付け」が出来ない人は「その程度の主張しか持っていない(=自身の意思による確固たる主張が無い)」と捉えられても致し方ありません。

 

 ......とは言いつつ、私はよく「私の考えですが」的なことを良く言いますが。だって言うだけお得ですからね、この言葉。最後に「価値観の違い」なんて最もらしい所に落とし込めるのですから。逆に、相手が「私の考えだから」とか「価値観は人それぞれ」とか言ってきたら上記で説明した通りの事を言えば良いでしょう。

 

因みに類義語に「主観」などがあります。相手の意見が気に食わないと「あなたの意見は主観だから信用出来ない」とか言いつつ、何か批判されると「わたしの意見は主観だから批判される覚えはない」と言い始める。都合良すぎませんかね?